この記事の要点
- 「AIで何ができるか」から考えると止まる。先に今の業務を書き出す
- 業務を細かく分け、回数・時間・入り口と出口・判断・例外の5点で見る
- ◎○△×で向き不向きを付け、時間の大きい順に上から3つだけ始める
「AIで何かできないか考えてほしい」。社内でそう頼まれた担当者が、AIの機能を調べ、使えそうな場面を探す。会議では「議事録の要約」「メールの下書き」といった案が並び、試しに使ってみる。ところが数か月たっても、会社全体の仕事の進め方はほとんど変わっていない。よくある流れです。
うまくいかない理由は、考える順番にあります。「AIで何ができるか」から始めると、AIの機能に合う仕事を探すことになります。先に決めるべきなのは、「今、自社のどの仕事に、どれだけの時間を使っているか」です。この記事では、その棚卸しのやり方をお伝えします。
なぜ「AIで何ができるか」から始めると止まるのか
AIでできることは、毎月のように増えています。機能から考えると、試したいことはいくらでも見つかります。ところが、そのどれが自社の成果に効くのかは分かりません。結果として、一人ひとりの小さな時短が積み重なるだけで、会社の仕事の流れは変わらないまま終わります。
反対に、今の業務が書き出されていれば、話は簡単です。時間を一番使っている業務のうち、AIに向いているものから手を付ければよいからです。棚卸しは地味な作業ですが、AI導入の成否の大半はここで決まります。
棚卸しの手順
- 1週間分の仕事を、動詞で細かく書き出す。「請求業務」ではなく、「注文表から金額を写す」「宛先を確かめる」「送った記録を残す」のように、一つの動作の単位まで分けます。大きな言葉のままだと、AIに任せられる部分と任せられない部分が混ざってしまいます。
- 一つずつ、5つの項目を書く。週に何回あるか、1回に何分かかるか、何を受け取って何を渡すか(入り口と出口)、人の判断が要るか、いつもと違う対応(例外)がどれくらい出るか、の5つです。
- 「回数×時間」の大きい順に並べる。1回は短くても回数の多い業務が、思いのほか上に来ます。ここで初めて、会社の時間がどこに使われているかが見えます。
- AIへの向き不向きを、◎○△×で付ける。付け方は次の節で説明します。
- 上から3つだけ始める。全部を一度に変えようとしないことが大切です。3つで効果を確かめてから、次に進みます。
◎○△×の付け方
- ◎ AIに任せる
- 入り口と出口が決まっていて、人の判断が要らず、例外も少ない業務。書き写し、形式の変換、決まった形の集計などです。進め方:仕事の流れにAIを組み込み、人は結果を点検する
- ○ 下書きをAIに任せる
- 判断は要るが、その基準を言葉で説明できる業務。問い合わせへの返信、報告書のまとめなどです。進め方:AIが下書きし、人が確かめて仕上げる
- △ 先に手順をそろえる
- 担当者ごとにやり方が違う、例外が多い業務。このままAIに渡すと、ばらつきがそのまま速く大きくなります。進め方:まず手順と判断の基準を言葉にしてから、○か◎にする
- × 人が残る
- 責任を持って決めること、相手との関係そのものが価値になること。値引きの判断や、大切な取引先との交渉などです。進め方:判断の材料集めだけAIに手伝わせ、決めるのは人
△の業務は、実はAIに向いていないのではなく、「まだ渡せる形になっていない」業務です。手順と判断の基準を言葉にすると、多くは○に、さらに◎に変わります。棚卸しの本当の価値は、この△を見つけることにもあります。
つまずきやすい3つの点
- 担当者に聞くと、例外の話ばかりになる。現場の方は困った場面をよく覚えているので、話がそちらに流れます。書き出すのは「いつもの流れ」です。例外は、週に何回起きるかを数えるだけにとどめます。
- ベテランの判断が書き出せない。「経験で分かる」とされている判断こそ、AIの効果が大きい部分です。過去の事例を並べて、「なぜこちらを選んだのか」を一つずつ聞いていくと、基準が言葉になっていきます。
- 表を作って満足してしまう。棚卸しは目的ではなく、始める3つを決めるための作業です。表ができたら、その日のうちに最初の1つを決めます。
棚卸しが、次の段階への入口になる
当社のコラム「AI活用の現在地を5段階で測る」では、多くの会社が Lv.1〜2 にとどまっているとお伝えしました。Lv.1 から Lv.2「業務の流れ化」へ上がるために、最初にやることがこの棚卸しです。業務が書き出されていなければ、流れを作り直すことはできません。
当社の無料診断では、ヒアリングをもとに主な業務を棚卸しし、どこから始めると効果が大きいかをお出ししています。